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救急車は「受け入れ困難」なのであって・・ [お医者のキモチ]

年末、専門医試験の不正が新聞の一面トップに出ていました。
業界団体の認定試験がこんな大扱いとはたいしたもんだなぁと思う。

こうして専門性を追求する一方で、
医者だったらなんでも診られて当然、(専門家による治療が必要な症例も)断るなんてご法度、という世論。

もちろん、不正が正当化されるなんて毛頭思っていませんけど。

最近の報道を見ると、いつ自分が「たらいまわし」の犯人としてマスコミや世論に袋叩きにされてしまうか、と思ってしまいます。
早期に治療を開始されなかった事例が日常的に表面化するのは本当に悔やまれることです。
しかし、日本中の医師たちが、自分の健康を害して、家族との生活を犠牲にして、労働基準法度外視で救急医療を支えているのに、、病院が悪いというばかりで原因探しは後回しの報道には、くやしくて涙が出てしまいます。

年末年始の輪番の日に、救急外来当直でした。
昨シーズンのように嘔吐下痢症のお子様たちで手一杯ということはなかったのですが、やはり大変込み合いました。
救急外来の、ベッドは当然のこと、ストレッチャー、診察台をフル稼働しても、患者さんが寝る場所がない。
救急車の「断り文句」として登場する「満床」「処置困難」というのは、こういう状況のことも含むと思います。
やっとベッドが空いて救急車を受け入れられる段になって、次の要請がただの酔っ払いだったりするのでやってられません。

救急車の受け入れ要請を受けて、8割方自分でも対応可能だろうと思った事例がありました。
残りの2割、万が一の臓器損傷に対応しきれない可能性がある、、ここで見栄を張るのは患者さんのためにならないと判断しました。
それでも、この方が他院にも断られ続けたら、当院も一躍「たらい回しの悪党」の仲間入りなわけです。

かったるいから救急車を受けないんじゃないんです。
無理に受け入れることでその方の適切な治療が遅くなったり、他の患者さんの治療がおろそかになったりする可能性を電話口の限られた情報から判断しているんです。

で、今日見た新聞の記事ですが。

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急患対応に調整役 たらい回し対策 地元医師ら配置
2008年01月07日
http://www.asahi.com/health/news/TKY200801060150.html

 救急患者のたらい回しが起きた時には「調整官」に対応させます――政府は4月から、急患の搬送先の医療機関が見つからず手遅れになるのを防ぐため、搬送先を探して、受け入れを依頼するコーディネーターを全都道府県に置く事業を始める。救急隊の手間を省いて、搬送時間をできるだけ短くする狙いがある。

たらい回し対策のイメージ

 コーディネーターには、医療知識に加え、地元事情にも詳しいことが必要なため、地元の医師を充てたい考え。平日の夜間(午後4時ごろ~翌日午前8時ごろ)と休日(土・日、祝日)をカバーできるようにする。

 実際の運用は各都道府県に委ねるが、例えば、救急隊が五つ以上の病院に受け入れを拒否されたり、病院探しに30分以上かかったりした場合に、コーディネーターが受け入れの依頼に乗り出すことを想定している。

 費用は、1県あたり年約3000万円を見込んでおり、都道府県と国が折半して拠出する。このための厚生労働省の08年度予算案7億円が、すでに昨年末の復活折衝で認められている。

 救急患者の搬送を巡っては、昨年夏に奈良県の妊婦が11病院に受け入れを拒まれた末に死産するなど悲惨な「事件」が起きていた。総務省消防庁の調べでも、06年に産科・周産期の病院に救急搬送された約3万5000件のうち、病院から5回以上受け入れを拒否されたケースが220件あった。

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いいかげん「たらい回し」「拒否」という医療側の不作為を類推させる表現はやめましょう。

この構想、「地元の医師」とはどんな人のことを言ってるんでしょうか。
現役でバリバリ働いている医師は、コーディネーターなんぞやってる暇があったら現場で働いてください。
一方、引退した医師だからといって「コネのある病院に救急車を受けさせる」なんてことは現実的ではありません。
無理なものは無理なんですから。

救急車を受け入れられるかどうかなんて、5分10分刻みで刻々と変化しうるものなんです。
病院に受け入れ可能かどうかをその都度オンラインシステムに入力せい、というのは労力の無駄です。
そんな暇があったら患者さん一人診られます。
一度に複数の病院に連絡を取り、受け入れられると返事した直近の病院に搬送するようなシステムを導入するとかしないと、7億円がパーのような気がしてなりません。


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