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よりよく生きてもらうということ [お医者のキモチ]

外科医になった理由の一つは、もともと元気な人が、元気になって帰って行くからだった。
実際、経験の少ない今のところは良性疾患(ヘルニア、胆石、虫垂炎など大雑把にいえば癌以外)の方が圧倒的に多い。
悪性疾患(癌など)でも治癒切除、あるいは補助化学療法でそれなりの予後を期待できることが多い。

それでも、順調な経過をたどった方々よりも、ごく一部の治療に難渋した方、予後が厳しい方のほうが、印象に残る。

根治切除を目指すけれど、取りきれない場合は断念して食べ物が通過する経路を設けるにとどめる、という患者さん。
術中所見から、残念ながら後者になった。
明日にはすっかり麻酔も覚めてしっかり話もできるようになる、が、はたしてどんな顔して会いに行けばいいんだろう、、、。
「取りきれた」などの嘘になることはけっして言わない。
会話の中で訊かれた範囲で、嘘にならない範囲で、状況を話す。
ご本人の術後の回復と、術中・術後にありのままを話してあったご家族の気持ちの整理を待った。

「大手術」にならなかったがゆえに術後の入院継続期間が長期になる必要はなかった。むしろ少しでも早く退院するように動機付けして、少しでも長く家で過ごしてもらいたかった。
医療スタッフや家族が「うまくいったよ、順調だよ」と嘘をつきとおしても、元気に日常生活を送れなくなるのは時間の問題であり、そのとき必ずやご本人と家族、スタッフとの間に行き違いが生じる。
およそ1年と残されていない時間、比較的元気に体が動くうちにご本人にはやっておきたいこと、行っておきたいところ、家族に残すものの整理、連絡を取っておきたい人、さまざまなことをすませてほしい。

最終的にはご家族の意向に沿うようにします、という前置きをした上で、ご家族に、ご本人にも予後が厳しいことは伝えたほうがよかろうと話し、納得された。

当然にご本人もショックを受けていたが、翌日には、話してくれてよかった、よくなったって言われても手術時間からしておかしいなぁと思っていた、とお話してくださった。
ご家族のがんばりもあり、ご本人の早く帰りたいという気持ちもあり、「お話」から数日後には退院になった。

・・・・その頃、他の方の術後経過が良好だったり、腹腔鏡下手術は難しいと思われた方が開腹にならずにすんだり、全体としては調子よかった。
だが、ひとり予後不良な方がいたり、ひとり術後経過が思わしくない方がいると、頭はそちらばかりに向いてしまう。

最近、結構悩んでいる。
悩んだって仕方がないし、誤解を恐れずに書くと手術好きだし、やっぱり自分は(高齢者が多く、基礎疾患が複雑という意味で)内科医にはなれないけど。

60代、70代、ときには40代で、発見された時には切除不能な進行癌、あるいは術中に腹腔内への播種が判明するという方が、それほど珍しくない。
つい先日まで平穏な社会生活、家庭生活を営んでいた方が、不調を訴えて精査した、手術を受けたその日を境に、切除不能癌患者になる。
そしてその家族も、治らない癌患者の家族になる。
鮮明な理解力をもった世代が切除不能癌と告知され、自分がそうであることを日々思い起こしながらときを過ごすのと、
80代、90代の方が重症肺炎や虚血性心疾患などにかかるのとは、状況がまるで違う。
治らない癌の場合、数ヶ月、化学療法が奏功しても(消化器癌に関しては)数年先には、必ず終末期を迎える。

よりよく生きてもらうために力を注ぐことは、よりよい死を遂げてもらうために力を注ぐことと紙一重。
医学的な支援を約束し、社会資源の活用を促し、その方の人生の一部を支えるためにがんばっているのだけれど。
半年や1年以内には、笑顔で歩いている目の前の患者さんはもういないだろうという、その現実を受け止めきれない。
医師という職業を選んだ以上避けては通れないのだけれど。

じゃあどうしたら自分は悲しい思いをしないで済むようになるんだろうって考えたら、進行癌を出さない、つまり検診業務に精を出すことなのかな。
でも当分は一線の外科医をするつもりだから、検査を勧める、胃カメラで早期癌を見落とさない、かな。

あの患者さんやご家族にこれは話しておきたい、こんなことを知りたいかな、どんなふうに話そうかな、ということを、医局で一息ついていても、通勤の途中でも、家にいても、考えてしまう。
経験を積むうちに脳内マニュアルが構築されていくだろうし、慣れないとこの先30年以上やっていけないとは思うんだけど。






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