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東京の妊婦死亡事例について [時事ネタ]

いまさら周回遅れですが。
後期研修医の立場で、東京で起きた妊婦さんが脳出血で亡くなった件について書いてみたいと思います。

「墨東病院でさえも後期研修医が一人当直してるの?!」ということが衝撃的でした。
総合周産期母子医療センターに指定されていること、さらには、マンパワーの面で立ち行かなくなって指定の返上を申し出ていたことは後に知ったところとして、ハイリスク分娩を受け入れている大病院で後期研修医が一人当直せざるをえない状況が、そもそも異常事態です。

産婦人科は内科系・外科系という分け方では外科系にあたるわけですが、外科医に求められる条件のひとつは「出血を止められる」ことだと思います。
手術自体がチンタラチンタラ遅くてもなんとかなりはするんですが、とにかく出血が止められないことには、患者さんの命を脅かすことになります。
一般的な外科では大量出血する場面は手術中以外にはほとんどありません、上級医の支援なく後期研修医だけで手術適応を判断、手術することは通常ありません。
が、産科というのはどれだけ安産であっても間違いなくそれなりの量の出血があります。まして緊急帝王切開や産後の弛緩出血など、上級医を待つだけの一刻の猶予を許さないことがあります。
そういう点で、産科医は「平時」でも他科にはない超緊急事態と隣り合わせにあるといえます。

我が同期を含めて、産科を選んだ後期研修医は、すごいなぁ、と思うんです。
そもそも学問的興味が向かなかったのですが、医学的にも、妊婦の家族の感情的にも、世間の見る目にも、ハイリスクな産科を、自分の進路に選ぶことはありませんでした。
我が子が医者になるって言い出したらどうしようかなぁ、と思っています。
まして、世の中が現状のままで、産科医になるって言い出した日には反対せずにいられるんだろうか・・・。

亡くなられた妊婦さんのご主人が、当直医だった後期研修医のことを「今回のことで傷ついて産科医を辞めてしまうようでは意味がない」とおっしゃっていたそうです。
今回、確かにキャパシティーを超える母体搬送の要請を断り、搬送先の決定に時間がかかってしまいました。
しかし、これまでも彼・彼女は何十の母児の命を守ってきたのであり、これから何百、何千の母児の命を守り続けられる存在です。

どうか、彼・彼女のその尊い意志がくじけることのないように願ってやみません。

最後になりますが、亡くなられた方のご冥福をお祈りし、誰かを責めることなく産科医療の充実を願っていらっしゃるご主人にお悔やみ申し上げます。





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